健康診断結果から、受け取るべきメッセージを、解説します
健康診断結果には、「次に具体的に何をするべきか」は書いてありません。わざわざ受診して、何時間も待って、結局、経過観察……イラッとしますよね。。。心陽クリニックでは、必ず具体的に何をするべきかを提案します。
健康診断結果が何を意味するのか、次回以降、どの項目に注目すればいいのか、放置するリスクと対策のコストなど、具体的な行動をお伝えします。健康診断は受けるだけでは健康になりません。
会社の健康診断の意味 = コンプライアンス★法令遵守
THAT's ALL!
とゆーことは、受けるだけでOKだけど、せっかく放射線被曝して、血を抜かれて、なにより山程仕事があるのに、時間取られるだけ??? せめて何かを得たい!!
とゆーあなたはコチラ!
健診結果を入力すると、
「最高に運がよくても
お金も時間もたくさん取られ、
ときには仕事や命を失う
心血管イベント」
のリスクがわかる!
生活習慣病治療の目的と目標
健康診断有所見後の賢い行動とは?
健診結果のヤバさを可視化する簡単な方法
循環器疾患リスクチェックに結果を入力
健診事後措置と健診後行動変容
労働安全衛生法第66条によって、事業者は従業員に健康診断を受けさせる義務、従業員には受ける義務が定められています。法定健診の内容は、表の11項目で、腹部エコー検査や胃透視などは含まれません。
「健康診断を受診した後にすること」も法律に定められています。それは、事業者が医師に、医学的な視点で、現在の通常業務の可否を意見させることで、事業者はこの意見を「尊重」しなければなりません。つまり、受診と違って事後措置の義務があるのは、事業者だけで、従業員にとって、健診後の行動変容は、義務ではありません。とはいえ、せっかく大切な時間を使って検査を受けても、受けるだけでは、疾患リスクを低減することも健康を増進することもできませんから、自分の人生のために、行動を変容するきっかけにしましょう。
初めての健診後行動変容として、「心血管リスク」に着目することを提案します。
心血管リスクとは、脳卒中や心筋梗塞など、起こしたら、最高に運が良くても、休業と高額医療費を負担することになり、悪ければ後遺症が残って業務が制限されたり、働けなかったり、動くこともできなかったり、命を失ったりするようなイベントを起こす危険性のことです。
発生したら最悪な心血管イベントですが、多くの事故や疾患同様、その9割は、予防が可能なのです。
心血管リスクを高める肥満、高血圧、脂質異常、喫煙習慣には、症状はありませんので、普段の生活では、リスクを実感できません。
たとえば危険な建設現場では、避けたいリスクとその効能が容易に想像できるので、ヘルメットや命綱を着用しますよね。
そこで、法定健診結果から心血管リスクを想像するページ「循環器リスクチェック」をご紹介します。
案内に沿って自分の結果を入力するだけで、同世代の最小リスク群や最大リスク群と自分のリスクを比べられ、シミュレーターによって、どの数値をどれだけ下げればリスクを変えられるのかを直感的にイメージできます。血圧や脂質は内服によって容易にコントロールできます。まずは簡単で効果が目に見えやすい行動変容から始めると、次の行動変容にも手がつけやすくなります。リスクが高くても症状はありませんが、リスクを軽減すると健康を実感できて、次の健康好行動に進む方はたいへん多いです。時間がかかり、決断の必要な減量や禁煙など難しいことに取り組む前に、ちゃちゃっと血圧や脂質を下げるのも一つの方法です。
循環器疾患リスクチェック
そもそも法定健診は、企業の安全配慮義務として業務関連性の疾患を抽出し、業務内容の改善を図ることが主目的です。
会社としては受けさせること、労働者としては受けることが義務で、健康につながるかどうかのエビデンスはなし、それが法定健診です。
特に疾患リスクの検出は目的としていませんが、せっかくなら健康好行動につなげたいですよね。それならぜひ、こちらのサイトへ。
法定健診結果を入力するだけで、どれだけの心血管リスクがあるのかわかり、何をどう変えると、そのリスクが動くのかをシュミレーションできます。
たとえば、雇用時健診で無所見だった従業員が、入社後、3年以内に全員共通して、高血圧になる場合、なにか業務上の課題があることが想像できますよね? それなのに会社が業務との関連を発見、調査、改善しなかったら、立派な安全配慮義務違反です。
このように会社は、健診をもとに働き方と心理社会的環境を見直す必要がありますが、従業員個人は何をすればよいでしょうか?
労働安全衛生法という法律上、労働者は法定健診を受けなければなりませんが、その後の行動変容は義務付けられていません。だから、所見を放置しようと、喫煙を続けようとかまわないというわけではなくて、自己保健義務は果たさなければなりません。雇用時健診で、業務の遂行が可能な健康条件を示して採用されたのですから、企業側にその健康を障害しないという安全配慮義務があるのと同様に、その健康を維持増進するのは従業員の義務です。
そして、法定健診にまつわる行動に関しては、あくまでもコンプライアンスの問題で、法定健診を受けるだけではもちろん、結果が無所見であっても、長生きできるとか、がんにならないとか、健康でいられるとかいう科学的エビデンスはありません。
実は、世界で労働者の健診を義務付けている国は、日本以外にほとんどありません。効果があるなら、どの国でもやるはずですよね。
健康診断の結果、わざわざ必死に融通して時間を作って「産業医面談」や「保健指導」を受けても健康にはなりません。
病院に行って、「まだ治療には早いです」って、医者とは一度も目が合わず、薬も出されず終了して、なんの料金なのかもわからず、1,000円足らずを支払っても、健康にはなりません。
多くの企業の従業員に、健診結果の説明をしてきましたが、ほぼすべての社員に行動変容を約束してもらっています。
むろん、すべての社員が約束を守るわけではないでしょう。それでも少なくとも約束すらしない社員よりは可能性はあります。
本日はそんな健診結果説明の極意を、皆さんがセルフチェックで叶える方法をお伝えします。
そもそも、健診有所見って、何がどれくらいヤバいのでしょうか。
最も有所見率の高い項目は脂質異常ですが、いまや3人に1人が有所見!
本来、医療的な異常値っていうのは正規分布の中心から±2SD 程度を指すことが多くて、その基準だと異常値になるのは5%未満です。
33%が異常っていうのははっきりいって線引きがナンセンスだし、健診を法定義務にするなら、それこそ有所見者の治療も法定義務にして企業に支払も課してほしいところ。病気を作るだけ作って知らんぷりはおかしい。
恐怖の実話「脂質異常なので、卵(牛乳、アイスクリーム)はやめましょう」
嘘のような本当の話ですが、50代半ばの女性従業員から、「以前、健康指導で、コレステロールが高いから、普段の牛乳を低脂肪乳に変えるよう産業医にアドバイスされたんですが、低脂肪乳がまずくて飲めないんです…どうしたらいいでしょうか」と相談されました。閉経後の女性は、コレステロール値が更年期以前より上がります。彼女は産業医が言う医学的っぽいことは真実だと思ってまじめに従って、酒も煙草もやらないのに、大好きな牛乳を低脂肪乳に変えて、アイスクリームに卑屈になって、それなのにLDLが下がらなくて悩んでいるわけです。そもそも牛乳は嗜好品で、他人に摂取を指図されるものではありません。ただし、乳糖不耐症など、飲みたくても飲めない場合は投入などで代用するという知恵が役に立ちます。牛乳が好きでも、明らかに飲みすぎによる健康被害があるのなら、量を制限すればいいだけで、まずいものに替える意味は不明です。
勘違いしている人が多いようですが、医学部では代謝の生化学は学びますが、栄養や調理については一切学ばず、低脂肪乳と牛乳の違いを普通の医者は知りません。卵にしろ、バターにしろ、食べることに関して、言うこときかないほうがいいですよ。
テレビではしょっちゅう医者に何を食べるといいという表現を使わせていますが、日本は医者が何かよい食べ方をアドバイスすることに診療報酬は出ませんし、よって知識もありません。調理法までアドバイスしている様子をよく観ますが、テレビ番組が出演料をくれるから台本を読んでいるだけです。
たとえば「EBV肝炎には納豆とキュウリを食べるといい」というようなアホらしい研究はまず行なわれないので、エビデンスはありません。(この例示も大嘘なので、一切信じないように)
脂質異常っていうのはなんの症状もなくて、脂質異常があることが「悪」だという絶対的なエビデンスはありません。ただし心筋梗塞等の心血管イベントは脂質異常があるとその異常の度合いや組み合わせによって起こりやすいことがわかっています。生活習慣の改善や内服により脂質異常は改善し、改善すると心筋梗塞などのよろしくないイベントが起こりにくくなるという関係があります。とはいえ脂質異常を改善しなくても炎症を改善すればイベントの発症率が下がることもわかっています。しかし、脂質異常とイベント発生の因果関係にはまだまだわかっていないことがあります。明らかなのは血中脂質の多くが体内で生成されたものであり、口から摂取した脂肪ではありません。たとえば血液さらさら効果のあるオリーブオイルの血液さらさら効果の主役であるオレイン酸は血管が詰まる原因であるプラークの成分です。中性脂肪を下げる処方薬はEPAとDHA、つまり魚の脂です。
循環器リスクチェックは、健診事後措置や健診結果説明に悩む精神科産業医の先生方にもお勧めです。
今や巷はメンタル流行で猫も杓子もメンタルメンタル・・・・・・産業医も精神科じゃないとダメだよね、的な風潮がありますが、脂質異常の有所見者は3分の1、ストレスチェックの高ストレス判定者は10分の1、メンタルヘルス不全者は数%という現状を鑑みると、企業に貢献している大多数の従業員の健康管理、必ずしも精神科が適しているとは思いません。批判ではなく餅は餅屋、企業やその従業員の状態に応じて適切な専門家につなげる力こそが産業保健専門職に必要なスキルです。ちなみに腰痛や肩こりの有病率も非常に高いです。(しかも症状そのものなのでプレゼンティーイズムに直結)
健診事後措置や健診結果説明に悩む精神科産業医の先生方にもお勧めです。
今や巷はメンタル流行で猫も杓子もメンタルメンタル・・・・・・産業医も精神科じゃないとダメだよね、的な風潮がありますが、脂質異常の有所見者は3分の1、ストレスチェックの高ストレス判定者は10分の1、メンタルヘルス不全者は数%という現状を鑑みると、企業に貢献している大多数の従業員の健康管理、必ずしも精神科が適しているとは思いません。批判ではなく餅は餅屋、企業やその従業員の状態に応じて適切な専門家につなげる力こそが産業保健専門職に必要なスキルです。ちなみに腰痛や肩こりの有病率も非常に高いです。(しかも症状そのものなのでプレゼンティーイズムに直結)
健診結果を記入しよう!!
まずは先頭ページにアクセス(上図)し、 WEBリスク診断へ をクリック。
あとは健診結果表をもとに質問に答えていくだけ。
40歳未満の場合は40歳と入れて下さい。
生活習慣病は未来へのパスです。
パスの話を先にすると、いろんな値は20歳時の自分と比べるのがお勧めです。
世の中の平均と比べたって、相手は赤の他人です。
20歳頃、特に健康に問題がなかったのなら、当時の体重や健診結果を自分の標準値、理想値と考えればいいでしょう。
多くの場合、ハタチのアナタはなかなかいいパスをくれてます。そして代謝などの生理機能や運動などの身体機能はハタチのパスから確実に衰えていきます。
下の図は20歳時からの体重の増加が糖尿病のなりやすさに与える影響です。
ともかく体重が軽ければ健康というわけではありませんが、もしアナタが今、20歳時の体重より増量していて、20歳時の体重がBMI20以上なら、そこまではよくない側面を気にせずに減量してかまいません。
雑な言い方ですが、20歳頃の状況でアナタの身体仕様が確立されるので、その後、増量すると社員(細胞など)は業務過多であっぷあっぷするのです。
DMリスク身長体重は四捨五入で整数を、血糖値は会社で受けた健診なら「空腹時」を選択してOKです。
中性脂肪はトリグリセリド、TGと表記されていることがあります。
これから紹介するこのリスクチェックは多目的コホート研究(JPHC Study)の調査結果にもとづいています。予測システムは多目的コホート研究・研究協力者の1993年時点での治療状況とその後の心筋梗塞や脳梗塞発症との関係に基づいて作成されています。
つまり、25年近く前の最先端知見であり、現況に完全に則しているとはいえません。
たとえば降圧薬を服用して血圧を正常値にコントロールしている人は、降圧薬内服の有無にかかわらず実際に血圧が高い人々よりもリスクが低いことは当然なのですが、疫学的な関係に引っ張られて悪い結果が推論されます。
また、こちらのリスクチェックを皆さまにお知らせすることに関しては八谷先生、井平先生にお断りしております。
記入が済んだら入力内容を確認しよう
確認画面でチェックしたらOKで先に進むと診断結果が現れます。
脳卒中、そのうちの脳梗塞、そして心筋梗塞のリスクが表示されます。
一番左の最も危険度が低いグループの値で自分の値を割ってみて、「年齢や性別などのバックグラウンドが同じ連中の間で、最も健康な(=最もメジャーな)人々より何倍リスクが高いか、と考えます。
ここでもう一つわかるのはなんだかんだ言って、どんなに健診結果が悪くてもすぐには死なない人のほうが多いってこと。
当たり前ですよね。
アドバイスを見よう
血管年齢までチェックを終えたらアドバイスに移りますが、これを読んでいるのはけっこうなかったるさです。いろんな細かいアドバイスが出てきますが、私はがーーーーっとスクロールをお勧めします。
とてもいいことが書いてあるのですが、正直言って中だるみします。
さっさとシミュレーターへ移動!!!!!
シミュレーターへ
これで中だるみして辞めてしまっては元も子もないので、読むのは後にして(「戻る」で戻れます)、シミュレーターへGO!!
こっから先が楽しい祭の始まりです!!!
ういーんういーんといろんなところをいろんなふうに動かしてリスクの移動をみていきましょう。
おそらく多くの喫煙者が一番簡単な手は禁煙だな、とわかるでしょうし、たとえお金と時間を使って薬を飲んで脂質をある程度コントロールしたところで、喫煙と減量を無視している限りミニマムリスクの仲間入りをすることはないという現実にぶちあたるでしょう。
禁煙禁煙と鬼の首を取ったように振りかざす連中には辟易している私ですが、やはり禁煙の意義は大きいなあと思います。吸ってるから頭ごなしにダメって訳じゃなくて、禁煙っていう選択肢を持っているのは喫煙者の特権だということ。「電子タバコに変えても健康被害はある」のは事実だけど、変えてみるのもいいんじゃない? 「変えられる」という成功体験をもとに結果、禁煙できた元喫煙者をたくさん経験しました。私自身、エビデンスに溺れて、「電子タバコへの変容は無意味」とコメントしてきたことを今は恥じています。電子タバコはむろん、体によいなんてことはない。だけど、変容への自信になるならいいじゃん。
20歳時より体重が増加した上、現在BMIが25を超えている人と喫煙している人は圧倒的に有利な健康カードを持っています。
そしてそのカードを2枚持っているダブルホルダーはものすごく強い!!!
正直なところストイックに健康的に品行方正に生きているのに数値が悪い人のほうが医者としては難しいし、たとえば生活習慣由来ではなく遺伝要因による脂質異常のほうが心血管イベントに結びつきやすいという知見もあります。
もし、アナタに減量や禁煙という選択肢があるのなら病院に行って薬をもらい、そのうち面倒で辞めてしまうという未来を選択する前に、減量や禁煙にトライしてもらいたい。
業務過多であっぷあっぷと先ほど例に出したように、アナタの体も一つの組織です。できることなら外注せずに自己完結するセッティングにしておきたい。
もし予期せぬ未曾有の災害が起きた際、アナタは家族を守るため、自分の身を守らなければなりません。
薬が手に入らないことで不安になり、つとめを果たせないなんてことはあってはなりません。
また、もしあなたが命に関わるイベントを起こしてしまったら、家族はひどく後悔します。
どうしてもっと強く厳しく禁煙を勧めなかったんだろう、って。
もしも行動変容していたら、最も大切な家族にさびしい思いも後悔もさせずにすむかもしれません。
もしリスクチェックの後で生活習慣を変えてみたら、ぜひ、血液検査をしてみて下さい。
1年に1度検査をすれば健康になるなんていうエビデンスはありません。
単純に法律で決まっているだけのことです。
自分の努力が実っているかどうか、本当にリスクが減っているのかどうか知りたいですよね。
もちろん血圧や体重は簡単に測れますが、血液検査もそう難しいことじゃありません。
医療機関はもちろん、簡単に立ち寄れる店舗、自己採血キットなどいろいろあります。
ぜひちょっと頑張った自分の評価にチェックしてみて下さい。
健康指標を測定することで健康になるというエビデンスは多くあります。
まず「測る」、そして「わかる」、そのあと「かわる」この3段階で健康を獲得して下さい。
メタボ健診・保健指導に効果なし
2020年10月、「メタボ健診とその後の保健指導に効果なし」という科学的エビデンスが発表され、関連業界はそれなりに大騒ぎになりました。その反響の大きさに論文を執筆した3人が連名で声明を出したほどです。
そもそも健康保険組合が行う健診や保健指導にしろ、企業の健診や産業医面談にしろ、その効果に関する科学的エビデンスはありません。一方で臨床の医療行為には背景となる科学的エビデンスが必ずあります。
急性期臨床から産業保健に転向した私には、大企業の健康管理センターの日常が茶番のように思えましたが、コンプライアンスとしては重要なことです。
実際に臨床医療においても、科学的エビデンスのない医療行為は行われませんが、科学的エビデンスのないルールによって、科学的には最も効果の高い治療方法が選択されないことは、よくあります。社会生活上、ルールを守ることは大切で、多くの場合、そのルールや制度には科学的エビデンスがありません。
1973年から当時の2億ドルを投じたMRFIT研究(multiple risk factor intervention trial)は、健康指導、特に栄養指導が心血管疾患や総死亡率になんの影響も与えないどころかやらないほうがいいことを示唆し、1991年のHBS研究(The Helsinki Businessmen Study)は、栄養指導群の心血管死亡率が2.4倍、総死亡率が1.4倍という結果を出してしまうなど、実は栄養指導に効果なし的なエビデンスはたくさんありました。
恐怖の保健指導 「卵は1日1個まで」
まだ、こんなことを言われる気の毒な方もいるようですが、卵を控えれば血中脂質が下がるという科学的エビデンスはありません。それどころか、こちらの症例報告はなんと1日に25個もたまごを食べるのに元気なおじいちゃん、通称エッグマンについての報告です。エッグマンは88歳で189cm84kgなので、けっこうデカくてがっしりしたおじいちゃんです。
当時は物語として読んだので、おもしろいだけだったけど、もともと文系の女子高生にはかなり難解な生化学的なことが書いてあるのに、よく挫折しなかったな~と我ながら関心しました。
むろん、よく言われているように口から過剰に摂取すれば吸収も、体内での合成も抑えられて血中脂質濃度というホメオスターシスを人体が保つというごくごくリーズナブルなお話です。
今回検索して、エッグマンというゲームのキャラがいることをはじめて知りました。しかも患者じゃなくて、ドクターエッグマン。
先日はクリニックに、165cm85kg、20歳時には55kgだったという60歳の男性が来院しました。
彼は数年前、睡眠時無呼吸症候群を診断されました。
そして、なぜかCPAPではなく下顎骨切り術を第一&唯一選択として提案され、あまりの恐ろしさに逃げ、自分なりに低炭水化物ダイエットで88kgから73kgまで減量したところ、高血圧でかかりつけの高齢女性医師に「低炭水化物ダイエットは脳に栄養が行かなくなるので今すぐやめなさい」と注意されて素直にリバウンドした家庭血圧155/95mmHg程度の男性でした。
ツッコミどころが多すぎてどうしようもないのですが、結果、現在は無呼吸も血圧も落ち着いて、医療費も数年前より減っています。体重も少しずつ落ちてきました。
今では法定健診での異常値は一切なくなり、疑問があると、まずは自分で調べた上で、妥当な質問をしてくるようになりました。(1年後の追記です)
"Medical error—the third leading cause of death in the US"は、死因の第3位は医療だという話で、こんな医者がたくさんいるのではそうなるでしょう、って思わざるを得ません。
生活習慣管理料という高い診療報酬があって、私はしっかりとってしっかり管理するべきだと思うので、よい制度だと思います。ただし、管理料を取っているほうが治療成績が高いというエビデンスは見つけられませんでした。患者満足度が高いというアンケートは存在しました。自己負担額は高くなるのに、満足度は高まるんですね。取らない理由をクリニックに尋ねたアンケートでは、「患者が離れないように」が大きかったという事実とギャップがあります。医者はもっとマーケティングに敏感になるべきですね。
服薬して、減量して、禁煙したら確実にリスクは下がりますが、指導の結果、そういう行動変容に至った場合にのみ効果があるのであって、指導したという事実はリスクを修飾しません。
外来診療報酬はすべてアウトカム評価ではないので生活習慣管理料に限った話ではないのですが、病院に行って、「一番軽い薬」をもらって、しっかり服薬しているのにリスクを下げるだけの効果は出ないでリスクはそのままという国民を、42兆円もかけてこんなに作っちゃっているのは、不思議ですよね。
全員無差別多剤戦略
説得や指導、管理によって他人の生活習慣や日常の行動を変容させるのはたいへん難しいことだけれど、非常に有用です。
このようなスキルは医師という職業においては確実に必要で、やっと医学教育の必修科目になった行動医学を修めた専門家達が、今後は本物の行動医学臨床を実現し、国民の認知や行動、そしてなにより社会全体をテクニカルに変える未来が期待できます。
しかしそれを手をこまねいて待っているわけにはいかない皆さまにはこちらの研究をご紹介しましょう。
N J Wwld and M R Law, "A Strategy to Reduce Crdiovascular Desease by More Than 80%". BMJ. 2003
内容をズバリ、言ってしまうと血中脂質濃度を下げるスタチン、血圧を下げる降圧薬、血漿ホモシステイン濃度を下げる葉酸、そして血小板機能を抑制するアスピリンを55歳以上の全員が内服することで、集団の心血管系イベントの発症率が88%、脳卒中が80%も防げるという驚くべき試算です。
88%の心筋梗塞が予防できる
葉酸は妊活中や妊婦の服用を巷で煽っているようですが、これら周産期への効果以上にかたいエビデンスとしてわかっているのが、この研究で示されているホモシステインの蓄積を減少する効果です。同時に葉酸の効果としてぜひ知ってほしいのが、飲酒による乳がん発症の影響を大いに緩和してくれることです。
たとえば中性脂肪をさげる処方薬には皆さんのよく知っているDHA/EPAがあります。日本人非医療者の不思議なところは、薬は体に悪く、サプリメントは健康によいと思う傾向があるところです。
サプリメントではなく医療上の治療薬として認められるには非常に困難な道のりを経なければなりません。それだけ安全で効果のある素性の知れたものだけが認可されるのです。サプリメントの中には効果はもちろん、安全性も確立されていないものがあります。副作用がないから表記されていないのではなく、副作用に対して検証する段階を経ないでいいので、書いてないのです。
実際に予防として自費診療で処方薬を飲んでいる現役医師も多くいます。
従業員にサプリメントを配布している企業もあります。もちろん自社商品なら素晴らしいですけれど、わざわざ他社から購入して配るくらいなら、専門家の助言を入れたほうがいいです。
集団全員の血圧を2mmHgずつ下げるというお話をしました。
その際の効果は心血管系イベントで6%、脳卒中で14%でしたから、この多剤服用戦略の効果のすさまじさがわかります。
つまり公衆衛生においては、医療をポピュレーションアプローチに応用することが最大の結果をもたらすことは疑いがなさそうですね。私自身はエビデンスのない職場でのストレッチや栄養指導に比べれば、学術的な試算が背景にある多剤内服戦略を企業が選択してもいいと考えます。
日本の経営者の多くは法定健診をコンプライアンスとしてだけでなく大切な社員の健康を守るものと位置づけています。しかし実際は、法定健診は社員を健康にはしません。社員を本気で突然死から守るために55歳以上の社員にこの戦略を行なえば、おそらく健診有所見者と医療費にすぐに結果が出るでしょう。
またこのシンプルな投薬セットは弊社の主張するマシな医療そのもので、やはり9割のイベントにそのマシな医療が効果があることを示すものでもあります。
もちろん行動経済学をふんだんに用いた無侵襲の介入で全従業員に健康行動を取らせるのが理想のポピュレーションアプローチです。血のにじむような努力で全従業員が1日2万歩以上歩くようになったとして、従業員の健康や企業の生産性にどのような影響があるのかは検証されるべきです。
健康経営はときに経営者の「やってる感」を満足させるだけのマスターベーションになっていることがあります。たとえ本気の医療を使っても、それが結果に結びつくのなら、マストバイです。いや、本物の医療行為ほど検証されている健康介入はないのです。名ばかり健康経営で何も結果を出さないくらいなら、これまで多くの疾患を解決してきた医学の粋の恩恵に職域であやかるのは賢い戦略です。
健康経営に医者や産業医は不要です。しかし、こうした医学的なエビデンスへのアクセスや、それを応用する専門性が、プログラムによっては一定の割合で必要です。たとえばこのような多剤併用戦略なら、一番に恩恵を受ける健保組合にコラボヘルスをもちかけるのもいい手です。
そのようなサポート、真の健康経営のお手伝いをするのが心陽です。
今回はポピュレーションアプローチに特化してお話ししましたが、ご自分の健診結果の把握にはこちらのコラムを、血中脂質についてはこちらのアブラカラブラシリーズをごらんください。
2020年4月追記
2020年1月には、むしろアジア人にはプラスかも?というべき結果も出ています。
Egg consumption and risk of cardiovascular disease: three large prospective US cohort studies, systematic review, and updated meta-analysis