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Yoko Ishida

ボケたくないなら眠りなさい⑤ 脳ドックで効果てきめん

脳ドックとは


脳ドックとは、脳卒中発症リスクを早期に発見し、リスクを低減する行動を選択するきっかけにするために、MRIや血液検査などによって、包括的に脳の健康をチェックする検診コースの総称です。

本来、脳卒中で死にたくない人が受ける検査ですが、そのためには血圧測定だけでもほとんど同じ効果が得られます。


脳卒中は、何の前触れもなく突然発症して、発症前までの普通の生活を奪います。

発症後の処置によっては、一命を取り留めることもありますが、それでもお金も時間も命もかかります。

発症後は、どんなに運がよくても1ヶ月近く仕事を休むことになりますし、100万円以上の出費になります。

命があっても、麻痺や言語障害などの後遺症が残り、仕事を続けられなくなったり、自分の力だけで日常生活を送れなくなったりすることもあります。

実際、脳卒中を起こす脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳血管疾患は、日本人の死因の第4位、要介護者の原因の第1位です。


脳卒中は、老衰になる前の中年にとっては、死因の第3位


死因の第1位は悪性新生物、第2位は心疾患(高血圧症を除く)、第3位は老衰です。

ご想像のとおり、老衰になるためにはそれなりにアダルトでなければいけないので、私がターゲットにしている働く皆様にとっては、まだまだ大人の世界です。


産業医面談をしていると、30代でも「年のせいで」なんて言う人がいます。50代だと更に自信満々に、「年のせいだとはわかってるんだけどね」なんて言うんですけど、私は、加齢による衰え、不健康が現れるのは、70歳以降と考えています。働く私達は、20代より30代、30代より40代、40代より50代、50代より60代と、どんどん活力がみなぎってくるはずです。もちろん、70代でも80代でも全く年齢による衰えがないどころか、どんどん元気になる方もいます。別に70代になって60代より衰えなければ不健康なわけではなく、大器晩成型の健康です。知識と経験を蓄積して、どんどんパフォーマンスの栄養にできるバイタリティのある素晴らしく健康な方は、年齢に関係なく元気になり続けます。とはいえ、70代以降は、元気になり続けられなくても、さほど心配することはありません。それは加齢という自然な現象かもしれません。

活動性の低下・食思不振などの症状があるけれど、それを説明する器質的疾患がなく、高齢である場合、老衰という診断ができますが、明らかな高齢でない場合は、それを説明する器質的疾患の検索を続けたり、精神疾患を疑ったりするべきでしょう。



たとえば、50歳から69歳を取り出してみると、脳血管疾患は死因の第3位です。老衰は診断できません。また、50歳から69歳で死亡するのは、男性で死亡数全体の19.5%、女性は9.5%です(総務省統計局2017年)。ちなみに49歳までに亡くなるのは男性の4%、女性の2%です。


年齢を不調の言い訳にできるのは、70歳以上のパイセンだけです。当院のかかりつけ患者は、じーさん、ばーさんになったら卒業と伝えてあるので、60歳、65歳と年齢を重ねても、じーさん、ばーさんにはなりません。日本の医療や健康の常識は多くの場合、高齢者向きに説明されているので、働き盛りの心陽世代には、あまりあてはまらないことにご注意ください。


若年性老衰は8時間✕5日間の睡眠で治る


もし、70歳未満で、倦怠感や活動性の低下、食欲不振等がある場合は、決して老化が原因ではありませんので、放置しないで対策してください。

なんとなく調子が悪い、年のせいかな、と感じる場合は、まずは5日間連続で、8時間以上、眠ってください。眠れなくても、寝床に横になっていてください。それでも、体調が一切、変化しないとしたら、絶対に医療が必要です。


脳卒中もそうですが、第1位の悪性新生物、第2位の心疾患かつ第3位の脳卒中の原因でもある高血圧症は、自覚症状はありません。前触れなく発症するため、未然に防ぐには、早期発見のための検索をした上で、行動を変容していくしかありません。第1位の悪性腫瘍は、労働安全衛生法に定める法定健診ではチェックしていませんので、ご注意ください。心疾患や脳卒中のリスクを推定する最も簡単で、安価な検査は血圧測定です。法定健診項目にもありますし、血圧計は5000円くらいで買えますので、ぜひ、今日から始めてください。


高額の脳ドックや人間ドックを受ける方は多いのですが、検査をしてもリスクは減りません。なにかしら、行動を変容しない限り、リスクは変わりません。はかっても、わかっても、かわらなければ、あなたの人生には影響しません。リスクが高いことがわかっても、リスクを避けなければ、無意味です。

そして、自分が行動変容したとしたら、その対策が正しかった、リスクが歴然と下がったという成果を確かめたいですよね。


高血圧症の治療をして、目標降圧を達成できていれば、確実に動脈硬化性イベントのリスクは下がっています。血圧の値が下がったことは、リスクが下がったと同じ意味です。とはいえ、非医療者の皆さんは、何か画像に見えるような変化が好きですよね。


大脳白質病変とは?


そんな皆様に朗報です。

当院でCPAP療法を行った2名のかかりつけ患者の頭部のMRIから、治療前にあった大脳白質病変が消えたのです。


大脳白質病変は、脳ドックのMRI・MRA検査で見つけられます。

血管内壁には、生まれたときからストレスがかかり続けています。そのストレスは高血圧症や糖尿病、脂質異常症などで大きくなりますが、健康な人でもゼロではないので、加齢によって誰でも血管は劣化します。血管がストレスで劣化すると、乾燥したホースのようにガビガビに硬くなって、柔軟性が失われ、脆くなります。持って生まれた血管のレジリエンスを超えて、血圧や脈拍、血中の組成によるストレスがかかると、血管は破綻します。小さな破綻が命取りになることはありませんが、小さな破綻があるということは、大きな破綻が起きるリスクが高いということは、想像がつくでしょう。

大脳白質病変は、脳の深いところで小さな血管の破綻が起きた結果、その血管の周りに酸素が届かなくなって、組織が弱ってしまった状態を示しています。これを虚血といいます。


大脳白質病変の存在や進展は、脳血管障害発症や認知機能低下の独立した危険因子です。


つまり、脳ドックで、大脳白質病変が見つかったら、脳血管障害の発症や認知機能低下のリスクが高いことがわかったということです。


誰の血管にもストレスがかかっているので、加齢が原因の場合もありますが、変化の程度が同じ年齢の人々よりも進行しているときには、年齢以外の理由があります。

もちろん、症状はありません。自分の動作を遅く感じたり、抑鬱的な気分が長く続いたり、という違和感を訴える方もいますが、その場合は、かなり進行しています。


大脳白質病変が見つかったら、血管のストレスを下げるか、レジリエンスを高めるかという対策が必要です。異常な低血圧でない限り、血圧を下げる行動変容が望ましいです。減塩、減量などの生活習慣の変化も重要ですが、すでに今、ここにリスクがあるのだから、収縮期血圧が130mmHg以上、または拡張期血圧が80mmHg以上の場合は、私は降圧薬を処方します。


降圧薬処方と同時に、高血圧や大脳白質病変を見つけた場合に私が必ずチェックするのは、睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中、酸素不足になるために、血圧や脈拍を上げて、体のすみずみに酸素を届けようとします。そのため、本来は血圧も脈拍も呼吸数も小さくなって、心臓や血管のストレスが最低になるはずの睡眠中に、血管が激しく劣化し続けてしまうのです。


睡眠呼吸障害がなくても、睡眠不足だと同様に血管のストレスがかかります。睡眠時無呼吸症候群は血管障害イベントのリスク因子で、二次性高血圧の最も主要な原因ですが、単純な睡眠不足や不眠症もそれぞれ独立して高血圧や血管障害イベントのリスク因子です。未治療の睡眠時無呼吸症候群があると、しっかり臥床時間を確保していても、ストレス状態が強く、結果として睡眠不足と同じ状態になってしまい、あらゆるリスクが高まります。


大脳白質病変がCPAPで消えた!


治療前に脳ドックを受けていた60歳の男性2名が、ちょうど治療1年後に脳ドックを受けたところ、どちらも大脳白質病変が見つからなくなっていました。


脳の小さな虚血部位には、周りの生きている血管が伸びてきて、また酸素をもらえるようになるので、一度できても、消えることはありえます。しかし、小さな虚血部位が毎日のように新たに発生し、血管壁の劣化に伴い、その頻度は増えていくため、毎年検査をしていると、じわじわと大脳白質病変が増えていく場合が多いです。大脳白質病変に変化なし、という所見であれば、降圧治療などがうまくいっていると考えるものなのですが、なくなっているということに、私も正直なところ、驚いてしまいました。


認知症一次予防としての睡眠改善 それを企業がやる理由でお伝えしたように、慢性の睡眠不足で海馬の容積はみるみる小さくなっていきます。睡眠時無呼吸症候群が加わると、脳実質が萎縮することがわかっています。脳実質の萎縮は白質で顕著ですが、灰白質や脳幹に見られる場合もあります。低酸素の脳実質は炎症が強いこともわかっており、繊細な脳の血管たちは悲鳴を上げています。


実は、脳の虚血部位が再灌流するときには、以前より強い組織に生まれ変わることがわかっています。睡眠時無呼吸症候群の場合は、虚血部位が再灌流しないで壊死してしまうことが萎縮の理由なのかもしれません。理論上は劣化した血管が、健康な状態に再生することはありえないのですが、もともと白質病変として見えていた部分が強くなり、酸素が充分に届いて炎症がおさまり、睡眠中の血圧が下がり、充分に深い睡眠が得られるためにグリンパティックシステムが充分に機能し、白質病変がなくなるという奇跡が起きたのでしょう。


たまたま脳ドックを受けたのが2名だったので、なんと100%の成果でした。


CPAPは65歳までに治療を始めると寿命が10年伸びる、心筋梗塞も10倍減ると言われていますが、それだけじゃなくて脳卒中も認知症も発症しにくくなることがわかりました。イキイキと生産性高く人生を楽しんで、100歳になってから正々堂々、老衰で亡くなるためには、睡眠が何より大事というわけです。


脳ドックで「大脳白質病変」所見を指摘された方は、ぜひ、心陽クリニックでスリープドックを受けてみてください。



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