top of page
Yoko Ishida

睡眠向上ポピュレーションアプローチの意義と効果

第92回産業衛生学会の発表を共有します。

職域のヘルスプロモーションプロジェクトとして、OSAに焦点をあてることの、企業としての意義について発表しました。

収益を上げ、社会に貢献するために、これほどふさわしいターゲットはありません。

言うまでもなく睡眠の不調は、あらゆる健康リスクと大いなる関連があることがあきらかになっています。


睡眠と経済の関係はよく知られています。睡眠時間とGDPの関係は図のように明らかですが、そのGDPに対する睡眠による損失の大きさも日本は傑出しているところに注目してください。

従業員の健康という人的資本に投資することで生産性を上げ、組織の収益としてリターンを得る戦略である健康経営を目指す企業が、注目するべきは睡眠であることが自明です。

このように不眠を放置していれば、みるみる医療費が膨らみます。

それでもこの医療費が、睡眠関連コストに占める割合は図のようにごくわずか。

つまり、この80倍の勢いで、業務関連コストが膨らんでいくのです。

もう一点、注目してほしいのが、Population Attributable Risk(PAR)です。

PARは公衆衛生学用語で、 ①RR(Relative risk / Risk Ratio / リスク比)と ②リスク因子の発現率 という2つの要因によって決定します。

つまり ①どれくらい危険なのかということ と ②その危険がどれくらい頻繁に起こるのか ということで決まります。


今の皆さんなら、新型コロナウイルス感染症の流行でイメージがつきやすいでしょうが、たとえばタバコを1日に35本以上吸っていると、1本も吸わない人に比べ、115倍肺気腫になりやすいです。

会社の中で、全従業員がタバコを35本以上吸っているなら、全社を上げて禁煙すれば、全体での肺気腫罹患リスクを99%以上下げることができますが、100人の従業員のうち、99%が非喫煙者で、一人だけが35本以上の喫煙者の場合、全体では一人の喫煙で53%のリスク低下です。立派な数値ですが、100人中1人のために会社のリソースを使うべきか、という議論は必要ですよね。本人がやめてくれれば、会社は何もしないでリスクは最小になります。他の従業員にはなんの責任もないことなのに、彼らが稼いだ会社の資本を投じるのは、おかしな話ではないでしょうか。

一方で、ある調査では93.7%が課題を感じていて、喫煙と違って必須の生命活動なのが睡眠です。5時間未満の睡眠で離職のリスクは3.5倍になるので、20%が5時間未満だった場合、その20%に5時間以上眠ってもらうだけで、全体で35%もリスクを下げられるのです。

離職者が出れば、もともと5時間以上眠っていた従業員も被害を受けます。これは会社として取り組む理由がありそうですよね。

睡眠臨床では自覚的な質問紙と他覚的な検査を組み合わせて行うのが一般的です。他覚的な検査があるなら、心理検査は不要と考えるのはあさはかで、やはり心理的な自覚は非常に重要であることがわかっています。一方でハイパフォーマーに多いのが自覚不足の睡眠不調です。メンタルヘルス不調と同様に、自覚と他覚の両視点でアプローチすることが肝心です。

さきほどのGDPで示したとおり、くわえて日本が世界に比べて突出して課題とするべき睡眠因子が、ずばり、睡眠時間です。

過重労働と健康障害の関係を仲介しているのも睡眠負債だと考えられています。日本を除くと8時間強の睡眠が一般的なようですが、これは生物学的な成人の適正睡眠時間にも合致しています。

また、国際比較として意識するべき課題の一つが、認知機能を低下させる安易な睡眠薬処方です。睡眠の改善は生産性をあげますが、睡眠薬の服用は生産性を下げます。これは明らかで、睡眠不調の改善=睡眠薬の服用という図式は決してありえないことを肝に銘じてください。

不眠症の92%以上に合併するSASはCBT改善しませんが、悪化はしません。一方、睡眠薬は舌根を沈下させ、SASを確実に悪化させます。睡眠薬そのものと、SASの悪化により、生産性は激しく低下します。

生産性に直結する睡眠時無呼吸症候群の診断と治療は、簡単です。

ACCJの提言でもわかるように、社会が取り組むべき疾患です。

睡眠時無呼吸症候群の検査は在宅で行う簡易検査と入院で行う複雑な検査があります。

合理的な出費を選択する米国で、このように在宅検査の需要が伸びていることから、在宅検査の有用性が推し量れます。

まずは職域でスリープチェックを実施することを推奨します。

スリープチェックの開発準備として、無症状の成人32名を対象にパイロットテスト&セミナーを実施してみました。

もちろん、心陽オリジナルのOSAリスクチェックを用いました。こちらは米国のチェックです。(日本版は数値などを妥当に修正しています)

結果は以下の通りで、リスクチェックの有用さは明らかになりましが、特筆すべきはリスクがない、症状がない人々の中に、重症OSAが隠れていたことです。

できることなら、すべての人々に在宅簡易検査HSATを受検してほしいのですが、このリスクチェックをきっかけにしていただくのもすばらしいことです。

検査結果として直面すると人の行動は変容しやすく、重症と診断されたすべての方が治療を開始し、現在では卒業したり、継続したりして、この機会に感謝してくれています。

私の目的は検出力の高いリスクチェックを世に出すことではなく、多くの治療によって生産性を上げられる潜在患者に治療を提供することです。

企業の皆様、ぜひ、ご協力ください。


閲覧数:66回

Comments

Rated 0 out of 5 stars.
No ratings yet

Add a rating
bottom of page