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ストレスを知る(2)ヤーキーズ・ドットソンの法則

適度なストレスによってパフォーマンスは高まる


ヤーキーズ・ドットソンの法則は、Yerkes-Dodson's lawの和訳で、全然、元の発音と違うんだけど、なぜかこれで定着しています。ストレスとパフォーマンスの関係を説明する法則として、有名です。

ストレスは変化であり、その変化に適応するために、人は努力します。

人は誰でも、少し高い目標を示されると、そこまで頑張れるものです。あなたにもきっと、目標というプレッシャーによって、自分のパフォーマンスを上げたという経験があるでしょう。

その目標にリアリティがないとあまり頑張れませんが、ちょっと頑張ればできそうだと思うと、頑張れるものです。実はレム睡眠には、目標にリアリティを与える機能があります。つまり、眠らないと、いつまで経ってもどうせ私には無理思考から、抜け出せません。

ストレスは原則、パフォーマンスの栄養ですが、その栄養をしっかり吸収するためには、睡眠が不可欠なのです。

学生から社会人になり、報酬に見合う貢献をしようと、プレッシャーを感じながら頑張るのは、非常に大きなストレスですが、だからこそ伸びます。

研修は毎日緊張して、ぐったり疲れますよね。数年して振り返ると、別に仕事もしてないのに、どうしてそんなに疲れるのかな?と感じますが、誰にでもそんな時期はあったのです。

ストレスの負荷はだんだん上げていくのが好ましいので、仕事のはじめたては、退屈に感じることもあります。はやく研修の座学を終えて、現場に出たい、先輩たちみたいな実務をしたい、とウズウズする気持ちですね。そう感じたら、あなたはパフォーマンスの上り坂にいる証拠です。

そこから負荷が上がり、ちょうど快適な地点を通り過ぎて、頑張らないとついていけないぞというレベルになってくる、目標がどんどん高くなり、そのストレスに適応するために、人はパフォーマンスをどんどん上げていくので、一定量のストレスとパフォーマンスは図のように相関します。

ストレスが高くなればなるほど、パフォーマンスが上がる、つまりストレスがパフォーマンスの栄養になるのです。


自分にとって最適なストレスレベルを睡眠で高めていかないと、天井效果が現れる


ところが、仕事の性質や、本人のパーソナリティによって、ストレスとパフォーマンスの関係は変化します。

ちょっとずつ高い目標というストレスに適応するためにパフォーマンスを上げているので、新たな目標が現れず惰性で仕事をするようになれば、パフォーマンスは伸びません。そこまでのストレスのおかげで仕事はこなせる、だけど、伸びしろが見えない、新しい目標が見えないというディストレスの世界がはじまります。ストレスがかからないというのはストレスなのですが、これはパフォーマンスを育てないストレスなのです。そして、生きているだけで、休日であっても、多少のストレスはかかります。 睡眠によって、そのストレスのないストレスをクリアできていれば、パフォーマンスは伸びないまでも保てますが、ストレスのないストレス状態では、概ね不眠が起こり、パフォーマンスは落ちていきます。 仕事でストレスがかからないとどうなるのか、については、明日のその(3)をご覧ください。

ヤーキーズ・ドットソンの法則には、このように、たとえストレスが増えても退屈な業務ではストレスがパフォーマンスを増やす効果はなくなるという解釈がありますが、私はこの解釈には必ずしも賛成はしていなくて、そうならないためにジョブクラフィティングなり、上司の支援なりが、あると考えています。 つまり、どんな仕事もストレスを栄養にして無限にパフォーマンスを高める期待を持てるということです。

アスリートのゾーンを目指そう


私たちはいつかその道のプロになり、気づけばいつか、仕事を始めたばかりの自分には耐えられるはずもなかった、できるはずもなかった複雑でストレスフルな仕事をこなしています。

トップ・アスリートはトレーニング時に戦略的に負荷をかけて、自分のパフォーマンスを引き出します。ストレスでパフォーマンスを引き上げるトレーニングを日常的に行っているからこそ、国際的な大舞台というとてつもないストレスの中、無限に新記録を達成します。アスリートが本番で結果を出すのは、幸運だけではありません。もちろん幸運ですが、その幸運を引き寄せる、実際に本番に強くなるために、トレーニングで、とんでもないストレスをかけているのです。

アスリートの飛び抜けたパフォーマンスの発揮が、ゾーンや、火事場の馬鹿力と言われる状態です。

ゾーンに至らなくても、今の自分にとって最高のパフォーマンスレベルに至ったら、できるだけここから下り坂に入らないようにマネジメントするのが重要です。

ここで求められるのが、ストレスマネジメントであり、そのための睡眠マネジメントであり、感情マネジメントです。


ユーストレスとディストレス

その時点でその人にとって最大のパフォーマンスにつながるストレスレベルを超えて、ストレスの負荷をかけると、努力しても目標に届かない徒労を感じ、自責の念や自信喪失などの心理問題を引き起こして、パフォーマンスが下がってしまうことがあります。その目標がワクワク楽しいものではなく、苦行や不当な命令と感じるなら、そのストレスはディストレスです。負の感情は負の感情の連鎖を呼び、雪だるまのように膨らんで坂を転げ落ち、最後にはバーン・アウトしてしまうこともあります。

注意するべきは、そのストレスが、パフォーマンスを上げるのか、それともむしろ、下げてしまうのかは、ストレスの性質や量に依存するのではなく、その人の現在の力量とか、パーソナリティとか、ストレスを受け取る側の個人的な要因によるということです。

部下のパフォーマンスを育成するために部下にストレスをかけるのは上司の大切な役割です。しかし、上司がストレスのかけ方を誤ると、部下のパフォーマンスは下がります。私が大丈夫だ、私はその年次に大丈夫だったという事実は、部下にとってふさわしいストレスであるという根拠にはなりません。なんならあなたよりずっと強いストレスにも耐えられるかもしれないし、あなたというストレス要因がある以上、どんな目標を掲げてもパフォーマンスは伸びないかもしれません。あなたと部下は違います。好ましいストレスも違います。

学問的には、パフォーマンスを上げるように働く、ポジティブな感情を引き起こすストレスをユーストレスといい、パフォーマンスを下げるように働き、ネガティブな感情を惹起するストレスをディストレスといいます。

日常的に受け取る仕事のストレスをユーストレスからディストレスにしないためのセルフケアとして、毎日の睡眠が大切です。深睡眠は前日までのストレスをクリアし、レム睡眠は翌日以降の最適なストレスレベルを上げます。睡眠を挟まないとストレスは蓄積し、最適なストレスレベルは下がり、前日まではパフォーマンスの栄養になっていたレベルのストレスで、心身の不調が生じます。

上司がかけるべきストレスはユーストレスだけです。皆さん、いいストレスにも思い当たるフシはあると思います。たとえば尊敬する上司から期待されて、大きな仕事を任されたときに震えた、あの感じです。

一方、なんでそういう言い方するのかな、やる気なくなるんだよね、という言い方、そういうディストレスについても、思い当たるでしょう。


上司と部下のストレス認識のミスマッチ

この例では、上司は、簡単な仕事で適切な負荷をかけて、部下を育成していると思っているのに、左の部下は自分にとって荷の重い仕事を上司が押し付けてくると感じていて、むしろ下り坂に入っています。右の部下はもう、バーン・アウトしてしまっています。

こういう状況に、私もよく出会います。

同じ仕事に対する、上司と部下の認識のミスマッチです。

上司は、自分が部下の立場だったとしたら、眼の前の仕事をどれだけ大きく感じるか、という想像力が足りないんですね、今の自分にとってシンプルタスク、楽な仕事だから、不慣れな部下にも千本ノックで量をやらせたら、達成感が得られるだろう、なんて思っている。。。令和的には終わってます。

部下が、難しいタスクに燃えるタイプなら問題ないし、ちょっとキャパオーバーだな、これってハラスメントじゃないの?って上司の悪口言えるくらい元気があればいいんですけど、そこを超えると、右の部下のように自分が悪い、と思ってしまうんですね。なんならもう、自分が生まれてきて、生きていることすら罪だと思えてくる。これがバーン・アウトです。

生まれてきて生きていること、これって誰にとっても最高にすごいことなんですよ。

自分でそう思えなくなったら、あなたが悪いんじゃない、環境が悪いんです。


この場面の「仕事」、つまり「ストレス」因子は同じものですが、同じ仕事をどう感じるのかは、三者三様です。昭和の上司は部下に負荷をかけて成功体験を積ませることが最大の愛情だと感じている一方、部下は上司の説明が不足していると感じている、こういう光景は特にエリート職種に多いです。

互いにそのうちわかってくれると期待しているけど、そんな日は絶対にきません。

同じストレスに対して、感じ方は人それぞれで、それぞれ当たり前すぎる感覚なので、わかってもらえないことが想像できませんが、だからこそ自然にわかり合うことはありえません。


ディストレスにさしかかったら、逃げろ!


現状のストレスに対するあなたの感情は、あなたが具体的に表出しない限り、周囲には伝わりません。伝えてもわかってもらえない場面は多いですが、伝えなければわかってもらえるチャンスはありません。ストレスが辛いということを表出すると、「甘え」だとか、「我慢が足りない」とか言う古い管理職がいますが、自分にとっての感覚が絶対です。

一方、あなた自身が管理職の立場なら、あなたの感情にとってどうか、ではなく、あなたの感覚と乖離していても部下の感情を尊重し、その上でマネジメントしていくことが必要です。

部下の立場なら、できれば、この段階で「逃げる」のが最善策で、この状態まで我慢してしまってはいけません。

「逃げる」というのは、仕事を休む、ということです。

ユーストレスがディストレスに傾かないようにバランスを取るのは大事です、そのためにコーピングがあります。受け取ったストレスをコーピングによってユーストレスに分別できる余裕があれば、それをすればいいけれど、誰でもバランスを崩して、ディストレス側に傾くことがあります、そんなときは、一旦、その場から離れるのが唯一最善の策です。仕事なら休む。バランスを崩した、というだけのことなら、3ヶ月程度休めば復活しますので、そのあと、またバランスを取ればいいです。3ヶ月というのは無限に長いように感じますが、長い人生においては、瞬きの時間です。

ストレスについて、苦手意識をなくすのも大切です。ストレスはパフォーマンスの栄養として、あなたの仕事を後押ししてくれる頼れる相棒です。ディストレスになる前のユーストレスの時点で、ストレスと仲良くなっておくのが鍵です。

ユーストレスには、パフォーマンスを高める、というよい作用しかないかというと、そうではありません。感情的にはよいことしかありませんが、生物学的には犠牲を払います。

明日はその(3)でストレスの悪いところと日内変動を解説します。

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