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石田陽子 Yoko Ishida

ボケたくないなら眠りなさい⑥ レム睡眠で侵入記憶を断捨離しよう!

侵入記憶とは?


侵入記憶(intrusive memory) とは、過去に経験したネガティブなできごとが、想起されることです。

不快な経験の記憶は、二度と思い出したくない、忘れたい記憶なのに、なにかのきっかけで、あるいはきっかけなんて全くなくても、意識されることがあります。勝手に頭の中に侵入(intrude)してきてしまう嫌な記憶です。


侵入記憶は、ほとんどの人にとっては時折起こる一時的な障害ですが、うつ病、不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患に苦しむ人々にとっては、非常に頻繁で、その記憶は鮮明で、心を動揺させ、更には疾病を増悪させます。PTSD の重症度を侵入記憶が予測する一方で、同様に典型的な症状である回避や覚醒亢進は重症度を予測しないことから、侵入記憶はPTSD の最たる病理的反応であることが示唆されます。


侵入記憶の重要性を考えると、侵入記憶の発生を促すメカニズムをよりよく理解することは、意図的に侵入記憶の発生をコントロールできる期待につながります。メンタルヘルスを改善し、精神疾患の負担を軽減する、新しい治療法の提案にも期待できます。


誰でも不意に嫌な記憶が頭をよぎった経験はあると思いますが、その頻度や鮮明さが、健常者と精神疾患の患者とでは異なるようです。人には、嫌な記憶を思い出すきっかけとなるような嫌な記憶に対応する記憶の痕跡を弱めて、将来、嫌な記憶が侵入してこないような防御機能があるようです。どうやらその機能が発現するのは、REM睡眠の状態らしいという研究を、いつも私に新しい知見を教えてくださるベターオプションズの宮中先生が紹介してくださったので、皆様にも共有します。


睡眠不足の脳で起こる記憶障害


確かに睡眠不足のときは、生産的な集中力が欠ける一方で、今、必要のないネガティブな想念が湧いてきやすいです。そういえば私は、睡眠時間を増やしたこの5年間は、過去の嫌なイメージや記憶がフラッシュバックして、うぐっとなるようなことがなくなりました。

年末に大掃除をしていて毎年通る道ですが、20代の若い頃の日記を読むと、本当にどうでもいいことを思い出しては悩み苦しんでいます。悩める乙女の過去の私には失礼ですが、「時間の無駄だな~」と思ってしまいます。

もちろん、眼の前で起こるトラブルに対して、急性の適応障害状態になることは、今もあります。ただ、翌日までその落ち着きの無さが持続することはありません。睡眠を挟むと、文字通り頭が冷えて、冷静になれます。

感覚としてはどなたも納得できると思うのですが、睡眠と侵入記憶の関係の根底にある神経認知メカニズムは十分に理解されていませんでした。

この研究で、睡眠不足が侵入記憶の想起を抑制する前頭前野の活動を妨げること、この抑制メカニズムの夜間の回復が、REM睡眠の合計時間と関連していることが示されました。

私達は本来、嫌な記憶を思い出さないように行動する能力を有しているのですが、睡眠不足によって、その行動障害が生じます。同時に自らネガティブな思考パターンになっていってしまうのです。

睡眠不足の経験があれば、思い当たるフシがありますよね。

睡眠負債を蓄積していると、ハッピーな記憶を創造する機能は失われ、嫌な記憶ばかり思い出してネガティブな思考を繰り返してしまうのです。

睡眠と精神疾患の深い関係はさまざま明らかになっていますが、そのメカニズムの一つが、背側前頭前野の侵入記憶抑制機能をREM睡眠が回復させるということだったのです。


記憶は時間とともに薄れるものですが、睡眠不足の侵入記憶は時間が経っても変化がありませんでした。

試験勉強など、覚えておきたい、将来的に取り出したい記憶は、睡眠を挟んだほうが定着しやすいことも別の研究でわかっています。

睡眠には、思い出すべき記憶を定着させ、忘れたい記憶に鍵を掛ける役割があるのですね。

あまりに楽しい、幸せな一日が終わって、眠りにつくのは惜しいような気もするけれど、その幸せな記憶を永久保存版にするためには、良質な睡眠が必要なのです。


REM睡眠を増やすワザ


この研究では、調整が脳の中だけで行われているわけではなく、心臓の活動、つまり自律神経の状態が、侵入記憶に大きく影響していることもわかりました。

REM睡眠はNREM睡眠に比べ、自律神経の交感神経活性が高いことがわかっています。脳の電気活動も覚醒中と変わらないくらい活発です。

人の脳には、仕事に集中している意識的な状態の他に、REM睡眠中などの、少し抑制が取れたタイミングで起こり、ふわっと、いいアイデアが浮かぶことがあるデフォルトモード・ネットワークという状態があります。ひとつひとつの神経細胞の自律的な活動の集積というよりは、グリア細胞を含む、あらゆる脳内の細胞が、その各細胞間の関係性ごと、一塊となってつくる状態です。細胞一つ一つはおとなしいように見えて、その関係性が作る脳全体の環境が、脳を成長させているといわれます。

しっかりとREM睡眠を経験した脳は、記憶の取捨選択がシャープになり、集中するべきときに集中し、リラックスするべきときにリラックスするスキルが高まります。これこそパフォーマンスです。


睡眠リテラシー第2回 レム睡眠とノンレム睡眠、浅い睡眠と深い睡眠で説明したとおり、REM睡眠は、睡眠のウルトラディアンリズムごとに起こり、特に一連の睡眠の後半にその発現時間が長くなります。

また、本日最初のREM睡眠は、本日最初のN3のあとに起こります。本日最初のN3を連続してたっぷり経験すると、本日最初のREM睡眠はすんなりと現れられます。

長いREM睡眠には、寿命を伸ばすとか、クリエイティブな活動を高めるとか、侵入記憶を抑制する以外にもよい効果がたくさんあります。

REM睡眠の合計時間を伸ばしたいのなら、まずは「とにかく、たくさん、ねること」です。


そして、REM睡眠は、睡眠の前半の仕事が終わる就寝から4時間後以降に優位になります。もし途中で目覚めても、遅刻ギリギリまで何度もゴロゴロうとうとして、REM睡眠を楽しんでください。就寝から4時間後以降、8時間、9時間、10時間とゴロゴロして、どんどんREM睡眠を増やしてください。

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