小西先生の記事を記念して、2018年5月のコラムを書き直しました。
小西先生の記事についてのFB投稿はこちらです。
・・・・
先日も小西先生ラブな投稿をしたばかりで、ほとんど推し活状態ですが、非常にわかりやすい記事です。 小西先生が、「やはり肉食はよくないんですね」というコメントに、
「 肉は僕もたくさん食べるよー笑。 肉食が悪いんじゃなくて、肉食なのに検査しないのが悪い」
と答えてらっしゃいましたが、まさに、大事なのはこの点なのです。
私たち専門家は、科学的に明らかになっているリスク因子をこの記事のように正確にお伝えすることができます。 それは皆さんのライフスタイルにケチをつけるためでは決してありません。 記事中にもあるように、「おいしい肉を食べ、お酒を飲むことも人生の楽しみの一つ」だと、私たち専門家もよく知っています。 大切なのは、大腸がんにならないことではなく、素敵な人生を送ることです。 だからこそ、様々なリスク因子を教えてくれた最後に、一番大事なメッセージを届けてくれています。
「日本で多く用いられる便潜血検査キットは、世界的に見ても感度が高く、2度の排便を用いる便潜血2回法により進行大腸がんの8割を検出できます。大腸がん発症リスクが高い食事、生活習慣を送っている人は、とくに便潜血検査を受けることが大事です。 便潜血が一度でも陽性になったら、放置せず大腸内視鏡による精密検査を受けるべきです。大腸がんの初期症状である血便、排便異常(細い便、頻便など)、排便時の腹痛などが軽くても、一定期間続く場合も、内視鏡を受けるべきでしょう。」
ほとんどの健保では、健診項目に便潜血を入れていて、皆さんは勤務先で受ける法定健診と同時に、便潜血検査を受けていると思います。 その機会がなくても、自治体が無料検査を行っています。 私の住む文京区では、40歳以上の区民なら誰でも検査を受けられます。 症状のある方、この記事を読んで心配になった方は、近医を受診することもできます。 便潜血検査は検査料が37点で判断料が34点ですから、料金はあわせて71点、かかりつけ医なら再診料と外来加算126点が加わって、自己負担3割なら590円です。 当院では内視鏡はできませんが、症状のある方や便潜血陽性の方は、提携検査クリニックにその場で予約を取って、検査日のみの受診で完結するよう保険診療で手配します。
便潜血検査はOTC化の議論がありましたが、立ち消えになりました。
私が取り組んでいる睡眠時無呼吸症候群も同じで、放置すると心筋梗塞や認知機能低下などにつながりますが、治療すれば睡眠時無呼吸症候群ではない人と同じレベルにリスクが下がります。 睡眠時無呼吸症候群にも肥満やいびきの自覚、かみ合わせ、頭頚部の特徴などリスク因子が明らかなので、それに気づいたら検査をして、結果に応じて治療すればいいだけです。
それにしても、小西先生の写真、もっといいのあるんじゃないかしら。。。
・・・・
この投稿に対して、小西先生ご本人が、
「石田先生〜!言いたかったことを上手にまとめてくださって、ありがとうございます」
とコメントくださいました。嬉しかったです。
それでは、少し直した過去の記事をどうぞ。
大腸がん検診としてお勧めするのが、便潜血検査です。
便潜血検査は、その名の通り、便に血液が混ざっていないかを見る検査です。
そう、「がん」ではなく、「血液成分」を検出する検査です。
検査結果は2通りで、血液成分が検出されれば陽性、血液成分が検出されなければ陰性です。
「がん」があるかないかは、検査してません。
だから、がんはないのに、痔の出血や生理の経血が便に混ざっていると、陽性になります。
反対にがんがあっても、血液成分が検出されなければ、陰性という結果になります。
つまり、「大腸がん検査が『異常あり(陽性)』でも、がんではない場合が多い」のは、一つの事実です。
また、「大腸がん検査が『正常(陰性)』でも、がんがないとは言えない」のも、一つの事実です。
なーんだ、それならやらなくたっていいじゃない。やったってしょーがないじゃない。
と思うかもしれませんが、便潜血検査は、ぜひ、どなたにも受けていただきたい、素晴らしい検査なんです。
便潜血検査は、「スクリーニング」というタイプの検査です。
スクリーニングとは、「ふるいにかける」ことです。がんがあるのかないのかヒントのない対象群をふるいにかけて、がんがあるかないか、あるとしたらどのようながんか、肛門から内視鏡を入れて観察する精密検査を受けるべき人を選別する検査です。
「がんがある人」より広く、「がんがあるかもしれない人」を選別します。
がん検診の便潜血検査が陽性だったけど、精査(下部消化管内視鏡検査)をしたら実はがんがなかった場合より、本当はがんがあるのにスクリーニング検査が陰性だった場合のほうが、もっと問題ですよね。
ですから、スクリーニングは、がんがないのに陽性になる人を減らすことではなく、がんがあるのに陰性になる人がゼロになることを目指さなくてはなりません。
とはいえ、がんであること以上に、がんでないことのほうが証明しにくいものです。
本来、「がんがある」とは、取り除いたがん腫を顕微鏡で細かく調べて、そこに異形細胞を確認して、はじめて断言できます。とはいえ、ヒントもないのに正常組織を取り除いて、顕微鏡で細かく調べても、異形細胞が見つかりませんでした、という「検査」には現実味はありません。
検査の結果は陰性と陽性の2通り、知りたい事実はがんがあるかないかの2通りで、検査結果と事実の組み合わせは2×2の4通りです。
4通りの中で、「がんがあるときにがんがあると検出できる確率」が【感度】で、「がんがないときにがんがないと検出できる確率」が【特異度】です。
便潜血検査の感度は30~92.9%で、特異度は88~97.6%と言われています。
つまり、がんがないのに陽性になる可能性はある程度高いけど、がんがあるのに陰性になる可能性は低いという、非常にスクリーニングに適した検査です。
おもしろいもので、がん検診を受けない理由の上位に「がんだったら困るから」が常にランクインします。
もちろん、誰だってがんだったらショックですが、がんがあると知ることではじめて、適切な対処をすることができるのです。
検査を受けなければ、がんがあっても、がんがなくても、「がんと診断されることはない」のは確かですが、検査を受けなければ、なんらかの症状が生活に支障をきたすより早く、「早期にがんを発見する」きっかけもありません。
スクリーニング検査の陽性は、がんの診断ではありません。
検査の異常が「がんの診断」にはなりません。
大腸がん検診で異常があった方は、次のステップとして全大腸内視鏡を受けてください。
大腸がんに対する全大腸内視鏡検査の【感度】(大腸がんがあるときにちゃんと大腸がんがあると指摘できる確率)は95%以上と、便潜血検査やS状結腸内視鏡検査の感度よりもかなり高く、全大腸内視鏡検査には死亡率減少効果を有する相応の証拠があります。
便潜血検査免疫法の感度(大腸がんがある場合に便潜血検査が陽性となる確率)は対象とした病変の進行度や算出方法によってかなりの差があり、30.0〜92.9%でした。一方で、化学法の感度は25〜80%と報告されており、免疫法の感度は化学法の感度と同等もしくはそれ以上と判断されました。
とはいえ、大阪がん予防検診センターが231,978人のデータで調査したところでは、便潜血の感度は96.5%でしたので、なかなかの感度と言えます。
最初から内視鏡したほうがよくない?
これもおっしゃるとおりですが、全大腸内視鏡を行なうためには数時間かけて腸を空っぽにする必要があり、検査の費用も数万円~と、時間も、お金も、身体的なストレスも大きな検査です。
便の異常や家族歴、便潜血の陽性所見などがあれば保険の適用もできますし、特に心配な方はもちろん大腸内視鏡を行なうことをオススメしますが、全員が行なうには少し負担が大きすぎるでしょう。
一方で便潜血検査は便を用いますので、検査があろうとなかろうと普段の排便にかかる時間とストレスにプラスはありません。スティックの先で便をこする手間などは少しかかりますが、内視鏡の比ではありません。価格も無料から1,000円程度とリーズナブルで、ポストに投函して検査するとなれば、ほとんど日常生活を脅かしません。健診センターに行く必要もないので、電車賃も移動時間も節約できます。
3件の無作為化比較対照試験によると、欧米で広く用いられている便潜血検査化学法を毎年受診した場合には33%、2年に1度受診した場合でも13〜21%大腸がん死亡率が減少することがわかりました。わが国で広く用いられている免疫法については、症例対照研究によって、1日法による検診を毎年受診することで大腸がん死亡が60%減ることが報告されています。
他の検診法と比較した便潜血検査の最大の利点は、検査自体に偶発症(副作用や事故)がないことです。とりわけ免疫法は化学法と違って、検査前の食事制限や内服薬の制限も不要です。不利益としては、偽陰性(便潜血検査での大腸がんの見逃し、中間期がん)によるがん発見の遅れと偽陽性(本当は病変がないのに精密検査が必要と判定されること)による精神的苦痛および精密検査に伴う肉体的苦痛・偶発症が挙げられます。
ポスト投函による簡単な便検査のキットを家に準備しておけば、気になる症状が続いたときにひょいと投函することで、不安が解消されたり、内視鏡を受けるきっかけになったりすることでしょう。
便潜血検査は、2018年9月、OTCとして広く利用されるチャンスがありましたが、全く根拠のない理由(本心では「クリニックの売上が減るかもしれない」「医者が特別じゃないことがバレるかもしれない」といういつもの理由)で、「使用した個人にメリットをもたらす保証がないばかりか、大腸癌のリスクを高めるなどデメリットをもたらす可能性がある」、「改善傾向にある大腸癌検診の質が低くなる」と医者がごねたために、本年の提案には含まれもしませんでした。
医者が国民の健康行動を邪魔する現状は、本当に醜いものですね。
Comments