第34回日本産業衛生学会全国協議会に参加しました
宮本俊明先生が大会長を務める、第34回日本産業衛生学会全国協議会(千葉県木更津市かずさアカデミアホール)に参加しました。
私にとって最も関心があったのは、産業歯科保健部会シンポジウム・研修会、シンポジウム2「職域において閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)にどう対応すれば良いか?」でした。
産業歯科保健部会長の安田先生とは昨年10月頭に京都の睡眠歯科学会で出会い、その直後、10月末の山梨の第33回日本産業衛生学会全国協議会で、私が歯科部会シンポジウムで質問、提言したのをきっかけに、「学会で必ず話題にする」と約束してくださり、なんとこのスピード感で実現してくださったのです。
日本睡眠学会、日本睡眠歯科学会でお世話になっている角谷先生と田島先生が、産業衛生学会のシンポジストとしてご登壇くださったのも嬉しかったです。
治療者割合を増やすことを目的とする運輸会社におけるトラックドライバー向けSAS健診プログラムの紹介
私はポスター発表を行いました。
スクリーニング検査結果とその後の行動変容
【方法】
2023年4月から2026年3月の3年間で、約3,000名のA社のトラックドライバーを対象に、国土交通省が努力義務として運輸会社に推奨するSASスクリーニングを行う。交感神経活性で睡眠を測定する携帯型終夜睡眠ポリグラフィーによるAHIが20(回/時)以上の場合、診察(医師による結果説明と睡眠指導、受診勧奨)を行う。過去実績を参考に、治療開始者10.2%以上、1名を治療につなげるための費用102,656円以下を目標とする。
【プログラム開始3ヶ月の実績検証】
2024年4月から6月までにAHIを測定した104名について観察し、施策設計の妥当性を検証した。データ不良はなく、AHI20以上は13名(12.5%)であった。13名全員に診察を行い、1名は診察を担当する石田が心陽クリニックでCPAP導入を準備中、9名にCPAP対応医科紹介、1名にOA対応歯科紹介、1名が再検査(保険使用自己負担)を希望し、その結果AHI20未満で介入終了、1名が診察には協力的で疾患について理解したが医療機関での治療は拒否した。簡易検査には助成金が適用されず、当院で治療の1名と診療情報提供書を作成した10名の合計11名が治療を開始すると、1名を治療につなげるための費用は、114,400円であった。
【考察】
A社において、過去実績より多くのドライバーをSAS治療につなげるという目的で、SAS健診プログラムを施行している。健診結果AHI20以上の従業員に対して、医師がオンラインで検査結果の説明、一般的な睡眠衛生指導、必要に応じた認知行動療法、体位療法等、具体的な睡眠改善方法の説明と支援、治療方法の説明、かかりつけ医/歯科医、近医でCPAPやOAの可能な医療機関の紹介(診療情報提供書の作成)、または面接担当医師による治療開始などを行う。
検査の精度が向上したことで、評価すらできなかった機器不良による脱落者をゼロにすることができた。また、診察までをプログラムに組み込むことで、受診勧奨者の受診率は47%から100%に向上した。上司による受診予約等、受診支援を通じて、従業員に会社の本気が伝わり、治療行動への移行が円滑になっていると感じる。しかし、受診勧奨者は37%から12.5%と3分の1未満に減少したため、最終的な治療開始者は10.3%から期待値で10.6%と、あまり差がなかった。過去実績と同じ37.2%(39人)のハイリスク者を抽出するためには、基準をAHI10以上に引き下げる必要があるが、その場合は、過去実績の10.3%を大きく上回る治療開始者を期待できる。 1名を治療につなげるための費用が過去実績を下回るためには、健診受診者の11.8%が治療を開始する必要があると試算できた。
どのサービス提供事業者も酸素飽和度スクリーニングによる判定基準を明示していないが、37%に受診勧奨すると仮定した場合、ODI10を基準にしている可能性が高い。しかし、過去に検査完了したドライバーによると怪しい貸出機が多く、機器不良による検査不能4.4%という過去実績からも、機器整備に課題がありそうだ。
今後は以下、2点について改善して運用したい。
1.ハイリスク群に医師が行う、「8時間程度を理想として睡眠時間を増やすこと」、「6時間未満の睡眠時間の場合には毎朝の点呼で睡眠時間が充分だと申告しないこと」などの睡眠衛生指導は、A社に協力してもらい、AHIに関わらず、全てのドライバーに伝わる工夫が重要である。検査には6時間以上の睡眠が必要という注意は徹底しているが、まだ、短い睡眠時間で検査しているものがいることにも注意が必要だ。
2.AHI値は、睡眠時無呼吸症候群の診断や重症度判定にとって重要な指標ではあるが、覚醒閾値によっては治療の必要度をうまく反映しない場合がある。酸素飽和度モニタリングを用いていた過去実績に比べ、受診勧奨者の割合が少ないという事実と合わせて、受診勧奨AHI基準値の引き下げや、他の指標を鑑みた基準を追加し、受診勧奨者の割合を増やしていく必要がある。
以上、本プログムには改善点や限界も多いが、機器不良への対応や専門家によるていねいなケアは好評で、さらに洗練させていくことで、治療者割合を増やすという目的達成の期待が持てると考える。
抄録
【背景】30~69歳の働きざかりの日本人のうち、睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)患者は、2200万人以上と推定されており、医科治療、歯科治療ともに社会保険制度が充実しているが、現在、治療中の患者数は70万人程度である。未治療のSASは心身社会的な健康のリスクを高めるが、治療反応性はよく、治療により、リスクを非SAS患者と同等に下げられる。事業者は、より多くのSAS患者に治療を提供するため、診断のための検査件数を増やし、治療行動を支援する努力が求められる。
【目的】国土交通省は運転手のSASスクリーニングを運輸会社の努力義務に定める。スクリーニングでハイリスク群を抽出し、受診勧奨を行い、治療を導入する各過程で脱落者が出るため、治療開始者はスクリーニング受検者の2.4%という報告もある。現在、運輸会社A社において、より多くのSAS患者を治療につなげる取り組みを行っているので紹介する。
【過去実績検証】A社では2021年4月から2024年3月の3年間で約3000名のトラック運転手を対象に終夜酸素飽和度検査によるスクリーニングを実施した。そのうち、2021年6月から2021年12月22日に933名がスクリーニングを実施し、41名(4.4%)がデータ不良、DおよびD+判定の374名(37.2%)に精密検査を勧奨し、163名(17.5%)が受診し、95名(10.2%)が治療を開始した。事業者はスクリーニング費用と精密検査費用を負担し、1名を治療につなげるための費用は、102,656.5円であった。
【方法】2023年4月から2026年3月の3年間で約3000名のA社のトラック運転手を対象に、携帯型終夜睡眠ポリグラフィーにより診断基準となるAHIを測定し、AHI20(回/時)以上の場合、医師による結果説明と睡眠指導、受診勧奨を行う。
【実績検証】2024年4月から6月までにAHIを測定した104名について観察し、施策設計の妥当性を検証した。データ不良はなく、AHI20以上は13名(12.5%)で、過去実績と同程度のハイリスク者(39名、37.2%)を抽出するためには、AHIの基準を10に引き下げる必要があった。13名に保健指導を行い、9名にCPAP対応医科紹介、1名にOA対応歯科紹介、1名が再検査(保険使用自己負担)の結果AHI20未満、1名が治療拒否であった。過去実績では受診勧奨群の43.6%が精密検査を実施し、27.4%が治療導入したが、今回は1名を除く93.3%が医療機関を受診した。ここまで、1名を治療につなげるための費用は、114,400円であった。 (抄録修正)
【考察】SAS治療者数を増やすという目的でSAS健診プログラムを施行している。同時に睡眠時間を増やすこと、具体的には6時間未満の睡眠時間の場合、毎朝の点呼で睡眠時間が十分だと申告しないよう指導している。会社が医師による指導を行うことで従業員に本気が伝わり、治療行動への移行が円滑になっている。今後は介入群の基準値の引き下げ等、具体的な運用方法について、洗練させていきたい。
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