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Yoko Ishida

睡眠のプロが教える冷房術

今朝のニュースの情報コーナーで、まさに、睡眠と冷房の専門家が教える寝室の冷房の利用法を特集していましたが、女性のアナウンサーが、「『深部体温』を下げる」と言って、おなかの辺りを示すようなしぐさをしていました。

深部温(深部体温、芯温、中心温)は、英語では、「core temperature」で、体幹の温度のことです。

わざわざ、一般的な体温と特別する理由は、私たちの深部温と私たちが最も知覚しやすい皮膚温にはかなり大きな差があるからです。図のように10度程度の差があるのは一般的です。

体温の測定はコロナ禍でさかんになりましたが、コラム「腋窩体温の意義」でお伝えしたとおり、体温の測定なんてかなりいいかげんな検査です。


おばあちゃんの知恵袋的には、おなかを冷やすことが夏風邪のバロメーターになるようなので、深部温とはおなかの皮膚温だと誤解するプロセスは非常にわかりやすいのですが、体温と睡眠の関係という文脈では、深部温は脳の温度、すなわち、頭の中の温度のことです。

ガチの深部温はスワンガンツカテーテルを用いて心臓で測ったり、食道温や鼓膜温から推定します。膀胱温や直腸温も腋窩温よりはあてになります。


お腹を冷やす行動として、冷たいものを食べたり飲んだりするとか、お腹を出して眠るとかが浮かぶかもしれませんが、お腹が冷えるような行動で深部温が下がることはありません。消化管はコアというよりドーナツ状の体の外側なので、あまり深部温に影響はしません。体に影響するとしたら粘膜の火傷くらいでしょう。

深部温は、言葉のプロであるアナウンサーが誤解するくらい、皆さんにはピンとこないかもしれません。

テレビ局に情報を提供した専門家の表現は、正しかったのだと信じますが、その他にも短い情報提供報道の中に、いくつかおかしな点があったので、勝手に修正しておきます。


前回のコラム、「寝るのが楽しくなる睡眠のひみつ」で書いたように、深部温と脳の電気活動には大きな関係があります。

前回コラムのくり返しになりますが、脳の電気活動は、深部温が低いほど、抑制されます。

脳の電気活動は、激しい方が賢そうなイメージかもしれませんが、そんなことはなくて、温度が上がると不必要な電気活動まで活発になり、効率的な電気活動ができなくなります。炎天下の、今の時期に屋外に立っているだけでも頭はぼんやりするし、熱中症では意識がなくなることもあります。風邪などで高熱が出た場合も、頭がぼおっとして、何も考えられなくなります。


私は、PCのデスクトップや作業画面が散らかっている人が苦手です。いろんなソフトや無数のタブを同時に開いて作業している人って、デキるように見えると思っているのかもしれないけれど、デキる気がしません。自分の仕事も、PCの動作も、遅くしているだけにしか見えません。

いっぺんに色々やってて、すべて中途半端なマルチタスクって、高機能って意味じゃなくて、捨てられない人、片付けられない人ってイメージです。マルチタスクに埋没してたら、意味はないんです。

マルチロールを、それぞれシンプルタスクで片付けて、ライフシフトしてる人のほうが、優秀です。


私たちは、生きていながらでは唯一、おそらく多くの人々が希求してやまない、NREM睡眠のうち最も深い睡眠である「深睡眠N3」の間だけ、脳の電気活動がほとんど停止する状態を体験します。

パフォーマンスが高い人ほど睡眠の質に貪欲で、睡眠の質が最高の時間は脳が動いていないという真理って、なんだか深遠です。

そしてこのN3で、コラム「ボケたくないなら、眠りなさい② 究極の脳内デトックス」で説明したように、脳内の大掃除が行われています。

望むと望まざるとに関わらず、覚醒中に勝手に脳内にインプットされた有象無象の情報を、すべて棚卸しして、取るに足らない情報や不愉快な記憶を捨てて、明日以降の覚醒中に期待される、新しくワクワクする情報のために、脳の空きスペースを確保します。 さもなければ脳というハードディスクに負荷がかかって、クラッシュしちゃいます。


脳の電気活動は睡眠の他、温度にも影響を受け、温度が下がるほど、電気活動が減ります。くわしくは、「寝るのが楽しくなる睡眠のひみつ」にゆずります。

つまり、深部温が低いことと、眠ることは似た状態なのです。

どちらが原因か結果かはわかりませんが、深部温を下げたほうが睡眠に有利であり、深部温が低下する勾配に眠気を感じることがわかっています。


反対に、よく眠るためには、この、深部温が下がる勾配を作ってあげればいいんです。

コラム「睡眠リテラシー第2回 レム睡眠とノンレム睡眠、浅い睡眠と深い睡眠」でお伝えしたように、N3がやってくるのは寝入りばなが中心で、少なくとも睡眠の前半です。

睡眠を始める前に、効果的な勾配を作ると、うまく眠気を感じて、深部温を実際に下げて、脳の電気活動がダブル効果で減弱し、スムーズにN3に入れます。


随意的に勾配を作るためには一度、体温を上げることです。恒温動物の私たちは、できるだけ体温が変化しないように防御しますが、何らかの事情で深部温が変化してしまった場合には、ホメオスターシス(恒常性)がはたらいて、自動的に体温を下げようとするのです。

深部温を上げるためのオススメ行動は、食事、運動、そして入浴です。

食事や運動、入浴で、体温が徐々に上がっているときの体は、深部温を一定に保つため、うつ熱を防ぎます。

そのあと、涼しい環境に戻って初めて、恒常性の防御に抗って上がった深部温を下げるために、手足や体から熱を放散していきます。

深部温が降下してくる勾配は、体温上昇の1時間半後くらいから数時間続きます。

生理的な体温勾配は22時前くらいからゆるやかに始まり、零時をすぎると午前4時くらいまでだんだん急勾配になります。

この生理的勾配のはじまりと体温上昇に伴う随意的な勾配のタイミングを合わせてあげることが、睡眠には最高の後押しになります。

22時に就寝する場合は、20時頃までにひとしきり体温を上げておくのが最高です。


反対に、体温を上げてから眠るまでに、充分な時間がないときは、体温を上げる行動をスキップすることが大事です。

たとえば23時に帰宅してから夕食、そして入浴、食後は2時間あけたほうがいいからとスマホで動画を視聴しながら2時まで起きている方がいるのですが、すでに生理的な体温勾配もありますので眠れますし、睡眠不足の悪影響のほうが大きいです。食べてすぐ寝ない、眠る直前には熱いお湯には入らないという情報は正しいのですが、睡眠不足のほうが確実に悪影響です。

どうしても体を洗いたければ、湯船に浸からずシャワーで済ますほうがいいし、一番いいのは、運動も入浴も朝に回すことです。

勤務先を出るのが遅くなる日は、帰宅して夕食を取るのではなく、夕方、食事を摂っておくのがオススメです。日課の晩酌が楽しみでも、アテのボリュームダウンで体温が上がりすぎるのを防ぎましょう。お酒はNREM睡眠が深くなるのを妨げますが、大切な習慣を無理に修正する必要はありません。私もお酒が大好きで、毎晩飲んでいます(笑)


熱を溜め込まない素材で隙間だらけに作られた、深部温を下げるための枕も、最先端の科学の力を集結して開発されていていますが、お値段高めです。

高額を払わなくても、頭寒足熱という言葉が昔からある通り、日本には籐製とか竹製とかの中が空洞になっている枕があります。たとえばメッシュ素材のハンモックなんかもすごくいいですね。

夏の寝具、特に脳の温度に関連する枕にとって、最もたいせつなのは、通気性です。

一方、冷感ウレタン素材でできた枕などは、体感としてはひんやりとして気持ち良いのですが、頭皮や顔から熱を放散することができないので鬱熱し、結果として、深部温をあげてしまうので要注意です。


眠い子供の手足が熱くなるのも同じ理由だと、「寝るのが楽しくなる睡眠のひみつ」で書きました。

ニュースの情報では足からの放熱が大事で、冷房の風は足にあてたほうがいいと説明し、その理由を「大きな血管があるから」として、おそらく大伏在静脈を示したイラストで解説していました。

これは私にはピンとこない説明です。大きな血管というなら、心臓につながる大動脈以上のものはありませんし、体温コントロールに有利という文脈で表在する動脈を選択するなら、頸動脈や大腿動脈に焦点を当てるべきでしょう。


動静脈吻合血管(AVA:Arteriovenous anastomoses)は、人の皮膚血管のうち,四肢末梢部や顔面等の一部だけに存在する特殊な血管です。手のひら、足裏、足の指、耳、まぶた、鼻、唇と、皮膚の薄い末梢に多く、皮膚表面から約1mmと毛細血管より少し深いところに、1平方センチ当たり100~600個存在し、拡張したときの直径は毛細血管の約10倍、流体力学の法則から流れる血流量は1万倍にもなる一方で、完全に閉じると血流量はゼロになります。

手のひらや足裏のAVAの活躍によって、下肢全体、上肢全体の表在性脾静脈の血流量や発汗量が増え、上肢や下肢全体からの熱放散が増加します。

褐色細胞組織が劣化する成人は、AVAが主として体を暑熱刺激や寒冷刺激から守り、体温の恒常性を保ってくれる立役者であることがわかっていますので、熱帯夜の睡眠中は、ぜひとも手のひらと足の裏を露出して、熱を放散させてください。


体温の恒常性を保つために私たちは、発汗による気化熱と、深部温より気温の低い外気に近い表在の血流を増やしますが、今の時期は深部温より高い外気温になってしまうことがあります。

少なくとも睡眠中は、冷房をつけっぱなしにして、室温を低いままにしておきましょう。

また、湿度が高いことで発汗や気化が邪魔されますので、ドライモードにしてできるだけ湿度を下げる工夫もオススメです。

喉を守るために夏もドライモードにしないという意見を聞いたことがありますが、湿度は40%以上あれば問題ないので、けっして70%以上にしないようにしましょう。


私はキッチンと同室のリビングダイニングと寝室の1DKに1人で住んでいますが、今年は6月の終わりから、一度もクーラーを切っていません。途中に4泊の出張もありましたが、つけっぱなしです。だいたいリビングのクーラーをつけたままにして、帰宅後、起床までは寝室のクーラーをドライモードでつけています。

ときどき青っ洟が出ますが、熱中症より、私にとって最も大切な認知機能へのダメージが少ないので、気にしてません。


【まとめ】

睡眠のプロとして、寝室のクーラーはつけっぱなしがおすすめです!

ドライモードや、AVAのある部位に、扇風機の風が当たる環境もよいでしょう。


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