ウェルビーイングと人的資本
間違いだらけの健康経営の①定義でお伝えしたとおり、健康経営とは
従業員の人的資本に投資する
投資に見合うリターンを得る
の2ステップ、THAT'S ALL です。
人的資本(Human Capital)は、最近、非常に注目されている用語ですが、公衆衛生学では古典的な概念で、貯金や不動産などの有形な財産だけでなく、キャリアや健康という無形の価値までを含めた、一人ひとりの資本という意味です。人的資本を所有しているのは、自分自身、本人です。 無形の人的資本は、ウェルビーイングという概念と非常に近いと言えるでしょう。 自分のLIFEがよい状態なら、それは自分の財産ですよね。
ウェルビーイングは、「LIFE is WELL.」の進行形なので、【生命・生活・人生が、よい状態であること】です。
LIFEという英単語に、日本語で生命、生活、人生という3つの意味があってちょうどいいので、私は最近、この「LIFE is WELL.の進行形」という表現を用いています。 「3つのLIFE」という言葉もあります。
人的資本は個人のものですが、集団の多様なメンバーそれぞれの人的資本が独立して多様に成長する結果、組織全体の収益が上がるという理が、健康経営の面白いところです。
これにはガタガタ言う筋合いはなくて、科学的な根拠があります。
文句があるなら、アカデミックに筋を通して反論してください。
企業が皆様のウェルビーイングを高めると企業の価値が上がる一方で、皆様がそれぞれ自分のために自分のウェルビーイングを高めると、所属企業やコミュニティの価値が高まります。 社会的価値の高い企業の一員であることが誇らしいのはもちろんですし、企業活動を通して社会に貢献できます。
そうする気が起きないような組織に所属しているのなら、自分の生き方、LIFEを再考してください。
だからこそ、皆様が個人単位で、自分のウェルビーイングに自己投資をすることは、結果として、非常に利他的な社会的な行為で、SDGsに向かっています。
具体的な人的資本投資
従業員の人的資本に投資する方法は、なんでもかまいません。
一番カンタンな方法は、「給料を上げる」ことです。
従業員が受け取る報酬は、従業員の人的資本です。
労働代償性、Effort Reward Balanceなど、さまざまな表現がありますが、人が自分の働きを評価してもらう上で、最もわかりやすいのは報酬でしょう。私自身、高い報酬で評価していただけるのは、この上なく嬉しいです。ムカつく人はいないでしょう。
健康経営として、何をしたらいいかわからないと考える経営者はぜひ、「健康経営宣言」をした上で報酬を上げ、「報酬の増額分を、各自の方法で、人的資本の増大に当ててほしい」と表明しましょう。
報酬の増額分を、禁煙治療に当てる人がいてもいいし、ワクチン接種の足しにしてもいいし、毎月の慢性疾患治療費に当ててもいいでしょう。
あなたの従業員が、その増収を、タバコを買ったり、怪しいドラッグを買ったり、酒を飲んだり、風俗に行ったり、博打をしたり・・・・・・不健康な行動に消費すると思いますか?
従業員が信じられないのなら、あなた自信の経営者の資質を疑いましょう。
従業員は、経営者の本気が見えたら、それはできません。
そうする従業員がいたとしても、総和としての人的資本は、間違いなく報酬増額分以上に上がるでしょう。
公衆衛生は、総和で考えます。
英国は主食であるパンの製造工業に働きかけて減塩制作を実施し、全国民の平均血圧を8年かけて、じわじわ2mmHg下げました。その結果、英国の心筋梗塞や脳卒中などのイベントによる死亡者数は4割減り、日本円で2,300億円程度の医療費削減をしました。 患者の高血圧を、2mmHgしか降圧できなければ医者失格ですが、公衆衛生上はユニバーサルで、優れた施策です。 経営者は医者ではありません。総和で勝てばいいんです。
疑うのなら、試しに全員の給料を上げてみてください。
健康経営のKPI
健康経営のKPIとして、喫煙率を何%下げるとか、BMI30以上の肥満率を何%下げるとか、立派な顔で掲げている企業があります。
それはまだかわいいほうで、「就業時間内喫煙の実施」をKPIとして掲げちゃっている企業もあります。
思わず、ウィキペディアで「KPI」を調べちゃうレベルです。
健康経営とは、
従業員の人的資本に投資する
投資に見合うリターンを得る
ということなので、
従業員の人的資本に投資する・・・特定のターゲット(暦年齢一桁が0と5の従業員等)に禁煙治療(1人5万円)を会社が負担することにより、喫煙率を下げて、現在の喫煙者の喫煙による健康被害を減らす&受動喫煙(二次喫煙、三次喫煙等)の被害を減らす
という投資であろうと考えます。
現在、組織の喫煙率が20%だとすると、10000人の会社では2000人、そのうち、暦年齢一桁が0と5の従業員は400人、その全員が禁煙治療を受けた場合のコストは20,000,000円なので、その予算を確保して通る施策です。
会社負担の禁煙施策の成功率は、確かに自己負担より高い60%として、助成対象喫煙者の20%が治療を受けた場合、80人が治療を受けて、48人が禁煙成功、コストは想定の20%の4,000,000円で済みました。
結果、48人の禁煙成功後のプレゼンティーイズムが、それまで喫煙で失われていた分、下がったとして、元喫煙者並みになるので、480,000円のコスト減と考えましょう。
そもそも非喫煙者は、会社のお金を使わないで最も生産性が高いのに、会社の資本で、現在喫煙者を元喫煙者にして、多少のコストダウンを図ることって、8,000人の非喫煙者にとって、ハッピーなことでしょうかね?
彼らの人的資本は上がるのでしょうか?
もちろん、受動喫煙が減ることは大きな成果ですが、48人が禁煙に成功して、喫煙率が20%から19.5%になることで、受動喫煙は多く見積もっても0.5%しか減りません。
結果、20,000,000円の予算を取って、4,000,000円を使い、副次喫煙を加えて500,000円のリターンがあったとして、この健康経営施策は成功でしょうか?
私が一番謎なのは、暦年齢一桁・・・のくだりです。会社の都合で、受動喫煙が防ぎにくい事業場の喫煙者を、優先的にターゲットにすべきではないでしょうか? 3年後には順番が来るから、3年間は喫煙ライフを満喫しよう、と私なら思います。数年待てば会社が5万円も出してくれるのに、自分で喫煙するのは損ですからね。
また、福利厚生費として計上する場合は、全従業員を等しく対象にするのが前提ですから、喫煙者のうち、年齢を限定しているとなると、正式には給与の扱いになります。
多くの企業で健康経営施策という名のもとに、ハイリスクストラテジーで対象者を限定する施策費用を福利厚生費で計上していますが、誤りです。
別の事例を示しましょう。同じ10,000人の企業で、これまで4,000円だったインフルエンザワクチンの助成金を5,000円にしました。そのために予算を10,000,000円とりました。
というのも、これまで企業に申請されていたインフルエンザワクチン接種料から推定するインフルエンザワクチン接種率は60%でした。しかし、これは接種率ではなく、申請率です。
理論的には接種率が80%を超えると、子どもでも集団免疫が期待できます。しかし、「申請率」と「接種率」は、果たしてイコールなのでしょうか? 会社が増やしたいのは申請率? それとも、接種率??
集団免疫を得ることは組織にとって重要ですが、それは人的資本ではありません。
もちろん、人的資本の増大を経なくても、組織が強くなることは大歓迎です。
2019年に関西大学名誉教授の宮本 勝浩先生が発表した「インフルエンザによるマイナスの経済効果」は日本全体で年間6628億263万円です。
計算の経緯をすっ飛ばして国民一人あたりで割ると、1人5235円です。
これまでの接種率が60%、助成額が4000円でしたから、ワクチン接種後、感染率100%がゼロになると仮定すると、24,000,000円かけて、31,410,000円の経済損失を食い止めていたわけです。
しかし、実際にはワクチンを打っても感染する人もいれば、ワクチンを打たなくても感染しない人もいるわけです。そして、感染しない人のほうが圧倒的に多いです。多く見積もって感染率は季節当たり8%ですので、感染率8%が1%に下がったとして、2,512,800円の損失回避ですね。
もちろん接種により集団免疫は上がり、人的資本の損失リスクは下がるので、費用の助成が接種率を向上させるのなら、よい施策です。 しかし、さらに接種率を延ばしたいのなら、助成額増額より、申請方法の簡便化や職場の集団接種の効果のほうがが高いでしょう。予約も異動も待ち時間も申請手続きも不要で、職場で5分捻出すればよいとなれば、確実に接種率は増えます。
4000円の助成ならワクチンを打たないけど、5000円なら打つ人がどれだけいるでしょうか?
こんな馬鹿な予算が通る企業なら、ベースの給料もまずまず高いので、ほぼ、申請率は変わらないでしょう。
申請率は変わりませんが、4000円以上のワクチンを受けていた従業員の申請額は増えるでしょう。
助成申請手続きが面倒で申請しなかった人が、1000円上乗せになって、申請するのでしょうか??
面倒だから接種しない、面倒だから接種したけど申請しない人は一定数いるので、集団接種が効果的です。
それなら10,000,000円、1,000円ずつ山分けするほうが良くないですか??
健康経営のKPIは、企業として、いくら得するか、に定めてナンボです。
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