まちがいだらけの健康経営
経済産業省によると、「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。
これで、なるほど、そうか!と思って、企業が健康経営してるのだとしたら、すごいな~って思いますけど、そういう企業はなくて、おそらく、具体的には、健康経営優良法人認定目指してチェックリストを埋めているのでしょう。
チェックリストには、「◯◯のアプリを使っている」みたいな項目がすごく多く、そういうアプリを探すと、「銘柄企業使用率90%以上」「良好事例としてメディアで紹介」なんてのがすぐひっかかるので、みんな喜んで買うわけです。
アプリの会社はすごくうまくやっています。そんな入れ食い市場があれば、誰でも参入するでしょう。
「健康管理」と「経営」を結びつけたこともなく、多くの企業で、「健康管理」も「経営」も本分ではない人事総務部門が担当しているので、健康っぽいなにかに、会社のお金を使うと、健康経営している気分が味わえるしくみです。
この定義は、従業員等の健康管理は、本来、経営的な視点では考えない対象であることを前提としているようにも見えます。私は、企業が行う、どのような決定も経営の一部だと考えます。
そもそも、「経営的な視点」ってなんでしょうか?
定義の前半部分が、すでに曖昧、そして後半は、もっと曖昧、それが、みんながムキになっている「健康経営」の正体です。
健康経営の定義
健康経営の定義は、従業員の人的資本に投資し、そのROIによって企業の業績を向上させる経営戦略です。
企業の資本を、外部に投資し、大きなリターンを得るのは一般的な経営戦略の一つです。 自社資本の投資対象を、自社の従業員の人的資本にすることで、社外に投資した場合のリターンと比べて、持続的で無限のリターンが期待できる上、企業が人材の価値を重んじ、人材に期待している姿勢がアピールできるので、組織の社会的価値がより高まります。 実際に、株価の上昇や売り上げの増加、就職希望者の増加、離職率の低下、従業員のコヒージョンの増大などが確かめられています。このような無形のリターンは、社外への投資では期待できません。
健康管理を介しているので、リターン幅が少なく、投資対効果はイマイチの場合でも、掛け捨てにならないという利点があります。従業員の人的資本が上がることが、企業に負の影響を与えることはありません。
すなわち社内外に、より健全な経営を印象付けられ、ガバナンスの評価が高まる上、大失敗のリスクが低いため、健康経営は「マストバイ(買い)」なのです。
米国のある飲料メーカーは、従業員にボランティア休暇を与えるという投資をしました。1000人が3日間の有給休暇を取るためのコストが、3億円かかるので、テレビCMに当てていたコストを用いました。 当然、テレビCMによって期待できる売上があるわけですから、ボランティア休暇を通して売上がそれ以上に増えなければ、健康経営はやったけど、結果は失敗だった、ってことになります。
経営[戦略]ですから、立てることに意味があるわけじゃなくて、その戦略で勝って初めて成功です。
実際は、スタジオや病院などの大型施設で、ボランティア休暇の従業員が活躍し、地域の自販機がすべてそのメーカーになるほどの大きな売上増加がありました。
従業員たちは会社に感謝し、ボランティアを通してさまざまなアイデアを持ち寄り、やりたいことが別に見つかって離職した人も増えたけれど、離職した人も、新しい自分を見つけさせてくれた会社に感謝して、外に出て会社の宣伝をしてくれる他、彼らが素晴らしい人材だからこそ、就職希望者は激増し、社会的な企業価値が向上することにつながりました。
新しい就職希望理由として、「ボランティア休暇が充実しているから」も加わったことでしょう。
健康経営だかなんだか知らないけど、オレたちが売上作ってんのに、人事がわけのわからねー制度つくりやがって、本気でそんな休暇取ろうとするやつもいるし、オレがボランティアみたいなもんだよ。なんてわけわからないことを言って、せっかく取得届を出してももみ消されるような環境で、チェックリストにあるから社内制度に追加しました!なんていうおままごとをやっても、健康経営の失敗どころか、健康経営ですらありません。
テレビCMには莫大なお金がかかり、同業他社はみんなそこで顧客を獲得しています。それをやめてボランティア休暇を与える会社には、本気という正義があります。だから従業員が本気で答えて、結果を出せるんです。
日本は道徳やモラルを重んじるのに、NORMより先に制度を作ってしまい、制度が形骸化するパターンがすごく多いです。(ノームの力)制度を作るのは良いのですが、その制度を作る目的として、現在、存在していないどのようなNORMをつくりたいのかを、トップマネジメントが明確にしなければ、制度ができても無意味です。 そりゃ、チェックリストは埋まるかもしれませんが、認定されるかもしれませんが、結果として、人的資本が向上していなければ、認定取った分だけ、会社の価値が上がったとしても、それは健康経営ではありません。
それでも、認定分価値が上がったのですから、企業にとってプラスの施策だったとは思います。
しかし、本物の健康経営がはらんでいる潜在的なうまみは、その比ではありません。
健康経営は、健康っぽいことにお金を使うことではなく、従業員の人的資本に投資して、大きなリターンを得ることです。
その戦略を練るためには、健康管理の知識は特にいらないけど、リターンを計算する能力が必要です。
健康経営の施策の成否は、売上によって決まるので、喫煙率が30%から20%になったことではなく、そのためのコストと、喫煙率が下がったことによる売上の増加分を天秤にかけて初めて分かるのです。
つまり健康経営を評価するためには、まず、経営の評価が必要です。
経営がうまくいった理由が健康経営でなくても、経営がうまくいって従業員の給料が上がれば、従業員の人的資本が向上するので、それが健康経営になります。
健康っぽいことにお金を使うまちがいだらけの健康経営は、そろそろ形骸化するかもしれません。
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